やわらかい光を浴びながら畳に寝転がるのは無上の幸せ

書評
牛込の加寿子荘を加寿子荘と呼んでいるのは私だけで、
これもこっそり呼んでいるだけのこと、加寿子荘には本名がない。

 

能町みね子さんのエッセイ『お家賃ですけど』。
能町さんがかつて暮らしていたという、

築40年はくだらない木造アパート”加寿子荘”での生活を記したエッセイ集です。

 

 

能町 みね子 文藝春秋 2015-08-04
売り上げランキング : 72064

by ヨメレバ

 

 

 

素朴でほっこりとしたものがたり

表紙や冒頭の写真から、じわじわと伝わってくる、古く懐かしい昭和の味。

実際の”加寿子荘”の鍵や呼び出しブザーの写真なんかもあるのですが、もう、震えます。

能町さんのこの本を読んでからというもの、「元気な昭和」に触れたい欲を感じるようになりました

 

「あの、お家賃ですけど……」
「あぁはいはい、ちょっと待ってくださいね」
加寿子さん、帳面をとりに奥にもどる。そしてまた来る。
「今月はね、水道代が三三〇〇円」
「あ……水道代はあとででいいですか?」
「はい?」
「あの、水道代は、」
「さんぜんと、さんびゃくえんです」

 

小説風に当時の暮らしぶりが綴られています。

その語り口がまた、なんとも素朴でほっこりします

大家の加寿子さんが、またいいんですよ。

朴訥として、おばあちゃんらしいおばあちゃん。

日々の暮らしをきちんと整えた、可愛らしく笑う加寿子さんの様子に、
(そして、すこし耳がとおい様子にも)

読みながらその様が想像されて口元がゆるみます。

 

“加寿子荘”が田舎の家とかさなる

“加寿子荘”の様子を呼んでいると、

田舎の祖父祖母の自宅を思い出します。

階段はみしみし鳴るし、
トイレは水洗じゃないし、
お風呂はようやく最近ごえもん風呂から給湯器で沸かすものに作り替えましたが、

正面玄関の鍵はあってないようなものだし。

裏口なんて出入りし放題です。

田舎ってそんなもんですよねえ。

 

両開きの門の片側がかしいでいて、ときどき開かなくなる。
門扉も全体的にさびついている。
わたしはその扉をガリガリと開いて加寿子荘に入ります。

 

読んでいると、古き良きあの時代にトリップできます。

実際に生きてはいなかった時代のこと。

ああ住んでみたいなあ。”加寿子荘”。

 

 

能町 みね子 文藝春秋 2015-08-04
売り上げランキング : 72064

by ヨメレバ